Cypress 1
※注意※
・せとりが読みたいロビぐだ子(現パロと言い張る)と、ちょっとだけ他のワガママを詰め込む予定。現代でくっついていない二人が、もだもだしている話が読みたかったのです。
・オリジナルキャラとオリジナルサーヴァントを絡めたお話になります。(これ言ってしまうとネタバレになる気が……。寛大な御心でお付き合い頂けると助かります)
・戦闘あり。流血あり。苦手な方はご注意ください。
・当然のようにエロあり。エロく……書けるかな? 努力はしてみます。
・傾向はギャグ寄りな恋愛。愛しさと切なさと心強さを同居させられるように頑張ります。
・性懲りもなく捏造設定オンパレード。いい加減にしろよ、せとり。いつものごとく、ここだけの話としてお楽しみください。
※重要※
・更新遅めです、多分。ゆっくりのんびり書いていきたい。
せとりのワガママを許せる方のみスクロールどうぞ!
プロローグ
変化を悪とし、不変を善としながらも、新しきモノを渇望し、旧きモノを疎む。
終焉を恐れ、誕生を歓喜し、継続に安堵を覚えながらも、誕生に絶望し、終焉へと邁進し、継続を苦痛とする。
人は、いつだって、どこかしら矛盾をはらんでいる不器用な生き物だ。
逃れる術もなく、ただ囚われ、縛られたまま。
あるいは、気付くことさえできないまま。
星の瞬きよりも遥かに短い一生を終える。
───意味はない。
そもそも意味を見出すこと自体がナンセンスでしかない。
───価値もない。
他者との繋がりが希薄なモノが、自らの真価を見出すのは困難なことである。
頭では理解している。しかし女にとって存在している事は、ただ、ひたすらに恐ろしい事だった。
重い瞼を持ち上げる。
何度か瞬きを繰り返し、くらくら、グルグル回る視界を元に戻すことだけに注力した。
…………。
たっぷり十五秒。正常になった視界を左へと巡らせる。
そちらの部屋の壁には四角く切り取られた窓がある。
暗い茶色の木枠で囲まれた、なんの変哲もない大きめの窓枠だ。
絵画の額縁みたいなその奥には、いつも一本の糸杉があった。西の星空を背負って立つ孤独な彼は、沈もうとしている丸い月の光を浴びて、黒く燃える細い葉を、さらに濃い影に浸している。
───風はない。
木の影は微動だにせず、静かに額縁の中、つまり、こちら側を見つめるばかりだ。
「今夜は、やけに熱心な視線を送ってくるんだね。やっと……その気になってくれた?」
清潔な死(におい)が染みついた白いベッドの中から、熱を孕んだ女の、ひどくかすれた声が漏れた。女は頭蓋の内側から生まれる腫れぼったさに目を瞑り、薄い笑みを唇に乗せたまま、佇む彼に話しかける。
───応えはない。
いつだってそうだ。手を伸ばせば届くほど近くにいるはずなのに、何も語らず、何も返さない。
寛大すぎるほど厳格に、有情すぎるほど非情に、不公平すぎるほど公平に。つかず離れずを保ち続け、黙したまま語らない。それでいて視線だけは雄弁に語るのだから、まったくもって始末に負えない。
女は、つまらなさそうに鼻をならした後、ふいっと額縁から顔をそむけた。
しかし、そむけたところで女を待っているのは、いつもと同じ、つまらない風景だ。
汚れ一つ存在することを許されない天井、壁、そして床。
変化と不変を切望されながらも、変化と不変を許容されない未来。
停止ボタンが壊れた読み取り機のように、女の意志に反したまま、時間は再生を続けていく。
唯一の救いは過去への逆再生はないこと。点への飛躍はあったとしても、時間の流れは一方向へのベクトルだけだ。
それでも、納得なんかできるはずもない。ただ『在り方』に対する虚しさが浮き彫りになっていく。
───夜はいけない。ひどく感傷的になってしまう。たとえ昼間に死ぬほど眠っていたとしても、やはり取っ散らかった不健康な思考に陥ってしまう。だから、ああ……やっぱり夜はダメだ。
少しだけ夜空を見てから寝よう。熱だってある。無理は禁物だ。
女は顔だけをゆっくり動かして、もう一度、額縁の向こうの変わらない夜空に視線を遣った。
「……え?」
女は熱で潤んだ目を極限まで見開いた。
夜空を駆ける数多の星。
次から次へと流れていく、宇宙に散らばる小さなかけら。
地上に降り注ぐ金色のキセキ。
月は優しげに微笑み、星が生み出す最期の輝きを見守っている。
この世のものとは思えないほどの美しい光景が額縁の外側に広がっていた。
女は言葉どころか、呼吸さえ奪われながら凝視する。
「なんで……?」
やっとの思いで絞り出した疑問が、ぽろりと口からまろびでる。
不変な世界に訪れた変化。ありえないはずの現象に、女は唖然とするばかり。
重苦しい鎖が絡まった鈍重すぎる体を無理やり起こし、ベッドから抜け出して額縁へ這うように近付く。そして額縁にもたれながら紺碧の空を見上げた。
……間違いない、やはり星が動いている。
突如始まった天体ショーに目も思考も奪われていたが、やがて重大なことを思い出し、女は、はっと息を呑んだ。
星が流れているならば、なにか願いを口にするべきだろうか?
───そうかもしれない。これだけ気前よく降り注いでいるのだから、一つぐらい願いを叶えてくれる物好きな星だっているはずだ。
胸の前で両手をそっと組む。目を閉じて、誰にも聞こえないくらいの小さな声で呟いた。
────。────。────。
しっかり三回。呪文のように唱えて、女は満足げに頷いた。
そして再び鈍重な体を反転させ、ずるずると引きずり、ベッドに戻ろうとして……、女はぴたりと動きを止めた。
先ほどの光景、どこか違和感はなかっただろうか? 額縁のような窓枠、流れる星、微笑む月、それから……
「……あ」
女は振り返る。確かに在ったモノがなくなっていることに気が付いた。
───いない。
糸杉(かれ)がいない。
あんなに疎ましい存在だったのに、いなくなった途端に、どうしようもない焦りが女を襲った。
額縁から身を乗り出し、できるかぎり素早い動きで首を動かす。
いない、いない、……いない。さっきまで絶対にいたのに、どうして今になって消えてしまったのか。
流れる星のことなどすっかり忘れて、女は糸杉の姿を必死に探し続けた。
すると……。
女の後頭部から背中にかけての皮膚が、ぞくりと粟立った。
久しく忘れかけていた感覚。これは、他者の視線を受けた時の感覚だ。
女はゆっくりと振り返る。
心臓が早く、大きく、鼓動を刻む。
額縁にかけられた両手から汗が吹き出し、言い知れぬ寒気を訴え始めていた。
熱を含んだ息は、さらに温度を上げ、真昼の砂漠の風のように喉を焼いていく。
女の色素の薄い瞳に映ったモノ。
それは……闇だった。
ベッドの向こう、窓から差し込む月明かりが届かない影の領域に、ことさら深い闇が立っていた。
女以外は誰もいないはずの部屋。訪れるモノなど、いないはずの空間に、宵闇で染めた外套を身にまとい、静かに佇む人影。フードを目深に被っているせいで顔は見えない。でも上背があり、肩幅も広いことから、男ではないかと女は思った。
怪しげな人物がかすかに息を吸い、そして口を開く。機械みたいに抑揚のない低いテノールが部屋に響いた。
それは、やはり男の声だった。
──、────?
男が問いかける。しかし女は訳が分からず、怪訝に眉をひそめるばかり。
今夜は一つも分からないことだらけで、頭がパンクしてしまいそうだ。
それでも。
それでも、たった一つだけ、女にも本能的に分かることがあった。
目の前の男こそ、女の願いが形を成した存在(モノ)だ、と───。
まずはプロローグ。
ぼちぼち書いていきまーす。
2023.2.1