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想いを伝えちゃったバージョン


 てとてとと近寄ってきたパッションリップが、潤んだ瞳で見つめてきた。
 何をするんだろうと思っていると、彼女はおもむろに顔を近づけてくる。
 ───唇にあたる温かい感触。
 キスされたと理解した時には、彼女の柔らかい唇は立香の元から離れていた。

「好きです、マスター。誰よりも、大好きなんです」

 桜よりも濃い紅を頬に差したまま、リップは想いをぶつけてくる。しかし居た堪れなくなったのか、ふっと体の向きを変えた。
 部屋を出て行こうとしているのだ。

「一方的に伝えたまま逃げないで。それとも、返事はいらない?」

 急いでリップの肩を掴んで捕まえる。
 振り向いた彼女は大きく目を見開いていた。

「そこまで想われているなんて知らなかった。もしも、同じ気持ちだって言ったら、リップは驚く?」
「本当、ですか? 本当に? 嘘じゃ、ないですか?」

 大きく頷くと、リップは泣きそうな顔でくしゃりと笑った。

「嬉しい……。わたし、嬉しいです。立香さん……」

 ずるずると腕を引きずりながら、リップが近付いてくる。頭のリボンが、立香の前で、ふわりと揺れた。

「ありがとうございます。こんなわたしの愛を受け止めてくださって。わたし、ずっと欲しかったんです。わたしだけの愛を受け止めてくれるアナタが……」

 パッションリップが手を回してくる。背中にぴたりとつけられた鉄の手が、やけに冷たく感じた。カチャカチャという音がなる。なぜだろう。鳥籠の中に捕らえられたカナリアの姿が脳裏によぎった。
 彼女はなおも言葉を綴る。

「誰にも渡したくないです。どこにも行かないで。わたしノロマだからすぐに置いていかれてしまうんです。あの時だってそうだった置いていかれて消されて好き勝手に扱われて。あれは違うわたし。わたしじゃないわたしだから関係ないですね。わたしだけを愛してわたしだけの愛を受け取ってください。他のサーヴァントなんていらないですよねだってわたしが一番強くて一番愛して愛されているワケなんだし。ああでもアナタはすぐに離れて行っちゃう。どうしてわたしだけを見てくれないの? アナタがいないとわたし生きていけないんです。だから……」

 瞳に光がない。焦点がどこにもあっていない。どこまでも澄んだ澱みが、そこにはあった。口元には亀裂のように壮絶な笑みが浮かんでいる。
 ぞくりと背筋が泡立つ。彼女の愛に捕らえられたまま、ゆっくりと引き寄せられる。あ、と思った瞬間には胸の谷間に体ごと押し付けられていた。

 ───ぐるりと世界が反転する。
 ───重力に従って、下へ、下へと落ちていく。
 ダストボックスだと言うソコは、以前落ちた時と全く様相が異なっていた。
 王家の棺桶捨て場。
 ───寂しい、暗い、怖い、恐ろしい。
 嘆きに満ちたそこは、けれどなぜか不思議と暖かく感じた。
 これは……自分に対するリップの想いなのだろうか。
 それを理解した時、ひどく泣きたい気持ちになって……。
 立香はそっと目を閉じた。





「誰もいない、わたしの想いだけが詰めこまれていく空間で、ずっと、ずーっと。永遠に───」

 わたしを愛してくださいね。
 惜しみない愛を受け止めてくださいね。
 ねぇ、愛しいアナタ───。



Merry bad end.
2022.2.26