なんでもない日
・付き合っている設定。
・立香ちゃんがロビンさんを祝いたいようです。
・超短いっ!
・立香ちゃんの方が珍しく優位かな?
以上、祝ってもらいたい方のみスクロールお願いいたします。
パンっ! と銃声にも似た音が、一つ、マイルームに反響した。ン、を余韻として、小さくなっていく乾いた音。金やら銀やらの紙吹雪と、メタルグリーンの長い紙テープが、ひらりはらりと宙を舞った。
「びっくりした?」
音の発生源であるクラッカーを持って、キラキラと満面の笑みでそう訊ねてきたのは立香だ。珍しくアトラス院の魔術礼装を着こんだ彼女は、ぽっかり開いたクラッカーの黒い口を向けたまま、オレがどのような感想をもらすのか興味津々である。
「オタクが突拍子もないこと始めるのは、よくあることなんで慣れましたがね。驚いたか、驚かなかったかと聞かれたら───ま、今回は驚いた部類に入るな」
「やったあ! どっきり大成功!」
自分の金髪や肩に降り積もった紙吹雪をつまみながら、オレは苦笑いでやれやれと床に落としていく。
たいがいこうして呼び出しをくらうときは、何やら画策している時だ。だからある程度の心づもりで部屋を訪れたのだが、今回は予想外だった。音で驚かせてくるのは反則に近い。神経を研ぎ澄ませているなら、なおさらだ。
「それはそうと何に対するドッキリだい? こっちとしては日々の頑張りを褒められる心当たりしかないんで、ちっとばかし心外ですわ」
やられてばかりも癪だったので、仕返しに傷ついたフリをしながら立香に問いかけた。
「えっとね、『誕生日じゃない日、おめでとう!』っていうドッキリ」
最後に、頭から垂れ下がっていた緑色のテープを床に落とすと同時に、はっ、と立香の顔を見る。頭ひとつ分ほど低い位置にある立金花(りゅうきんか)が、イタズラに、愉快そうに咲(わら)っていた。
「ロビンの誕生日、決まってないからさ。だったら、いつ祝っても支障ないんじゃないかって。むしろ、無理に誕生日を定めて祝わなくてもいいのでは? という結論に達したのです」
ドヤァと胸をはる立香。
なるほど、こりゃ読み聞かせ会で、とある本でも読んだみたいだな。
「だとすりゃあ、明日も明後日も祝わなくちゃなんねーな」
立香の悪巧みに乗った言葉を返すと、立香もにんまりと口の端を持ち上げる。察しがいいのは相変わらずだ。
「となると……洗い物が追いつかないかも? あとマンネリも防がなくちゃダメだね」
「そんときは新しい食器を持ち出して、場所変えで対応します? いつの間にかナーサリーが迷い込んで来そうだな、こりゃ」
二人でくっくっと声を殺したように笑う。
じゃあ私が帽子屋かな、今は帽子かぶってるし、神父さんから貰った動かない時計もあるし。
三月ウサギは……アサシンのアイツだと凶暴すぎるな。水着の王様あたりが適任か? いや、それだとオレが気まずいわ。って、オレは眠りネズミかよ。
そんなくだらない掛け合いを続けて、一息ついたところで、立香が後ろ手に、下から覗き込むように小首を傾げた。
「ロビンが喜んでくれるなら毎日でも祝うよ、私」
上目遣い気味に、そう進言する彼女。その表情は至って大真面目で、放っておくと暴走列車よろしく有言実行してしまう未来が見えるようだ。
「気持ちだけ受け取っておきますよ。毎日ってーのはさすがに手間だし、そういうのは一年に一回だから嬉しい訳であって、繰り返されると確実にありがたみが薄れるってもんでさぁ」
こっちの身ももたねぇし、とやんわり断ると、立香は残念そうに「ふーん」と声を発した。丸い頬に、「つまらない、本当はやりたかったのに」という文字が、ありありと浮かんでいる。
「ところで───プレゼントはちゃんと用意してあるんですよね? まさかクラッカーひとつ、なんてこたないよな?」
話題を変えるため、彼女に近付き、腰に手を回す。ほどよい肉づきの体が、抵抗もなく懐に入ってくる。抱き心地は上々。むしろ吸いついてくるようだ。
白い長袖シャツの袖が、オレの首に回された。立香の口元が、耳元に寄ってくる。
「ベタでもいいなら、あげるよ?」
リボンじゃなくてネクタイだけど、外してみる? と、眼鏡の奥にある蠱惑の瞳(はな)が、扇状的に細められた。
「マジでベタだな! 清姫でも憑依しました!?」
「え、じゃあいらない?」
「いやいや、そうは言ってないでしょ」
いつもは罠にかける側だから、何だか釈然としないのだが、まあ、こんな日があってもいいのかもしれない。なんたって、誕生日じゃない特別な日、みたいですし?
床に散らばる紙吹雪の掃除を思考の隅に追いやりながら、立香の顎を取り、ふっくらとした赤い唇に己のそれを重ねた。
なんでもないけど、特別な日。
君がいれば、鮮やかな花のように煌めく世界。
一昨年はロビンさんから立香ちゃんへ贈り物をしてもらったので、今年は立香ちゃんからロビンさんへ。
短いしベッタベタな展開だけど、そういうの嫌いじゃないのです。
2023.6.1