マスターはロビンと遊びたい

「つーまーんーなーいー」

 久しぶりの休日。人理修復のため毎日忙しなく駆けずり回っていた立香に、心配したロマンやダヴィンチちゃんがたまには休めと一日だけ休日をくれた。しかし東洋人の悲しい性なのか、急に休んでいいよと言われると何をして過ごせばいいのか分からなくなってしまう。趣味という趣味があるわけでもない立香は、持て余した時間をどう使えばいいのか考え、やがて一つの答えを出した。
 そうだ、誰かの所に遊びに行こう。思い立ったが吉日、立香はベッドから飛び起きると、足取り軽く真っ直ぐ目的の人物の部屋に向かった。

「だからって、なんでオレの部屋に来るんですか、アンタは」

 部屋の主であるロビンフッドが嫌そうに顔を歪めて立香を見た。立香はそんなロビンに臆することなく、床の上で様々な種類の草や実を磨り潰している彼の脇をすり抜け、ベッドに我が物顔で横になった。

「今日は休日じゃなかったんですかい?」
「ある程度縛られている間はそれに従えばいいけど、いざ自由になってみると何すればいいか思いつかないっていうね」
「ドMですか」

 呆れ顔で言った緑の弓兵は、再び乳鉢のような小さな石製の器を使って調合を始めた。部屋の中にごりごりという単調な音が響き、独特の草いきれの匂いが立ちこめる。

「何混ぜてるの?」
「イチイとか、トリカブトの根とか……」
「あー、毒薬作ってるのか」

 きっと普通の人が聞けば笑えない物騒な内容の会話を、今日は天気がいいね程度の軽い口調で喋る。ここでは非日常が日常なのだ。

「ロビンー、やっぱり退屈だよー」
「じゃあ別のサーヴァントの所にでも行ったらどうですかね?」
「んー、それは何か違うんだよね」
「なんじゃそりゃ」

 毒薬を煎じる音が止み、代わりにロビンの口からため息の音が聞こえた。ベッドの上で仰向けになり、白い天井を見つめていた立香の視界に、くすんだ金髪の青年の姿が映る。

「そんなに退屈なら、オレと大人の遊びでもしてみますか、マスター」

 ロビンがベッドに腰掛け、そっと立香の右頬に指を沿わす。その手つきがあまりにも恣意的で、立夏は頬を真っ赤に染めながら勢いよく起き上がった。

「な、何言ってんのよ! ロビンのばかっ!」

 ロビンを押しのけ、ベッドから飛び降り、逃げるように部屋を去って行った立香を見て、ロビンは一人軽く笑い声を上げた。少しからかって追い払うつもりだっただけなのだが、思いがけず色よい反応が返ってきたことに満足する。しかしロビンの頬にも朱が走り、顔は平時より幾分か熱くなっていた。自分にも少なからずダメージがあったことで痛み分けだなと思いながら、ロビンはポケットから煙草を取り出し、火をつけ紫煙をくゆらせた。



pixivより掲載。
本命には初心なロビンが書きたかった。
2018.6.5