君がいる明日

・「ギャグマンガ日和」の二次創作。
・太妹。

以上、生暖かい目で見ていただければ幸いです。





 春のうららかな陽気に包まれた午後の朝廷。
 あのアホ男の一言からそれは始まった。

「妹子! 四葉を探しに行くぞ!」

 そして今、僕―――小野妹子は聖徳太子と二人、草むらにしゃがみ込んでせっせと四葉を探していたりする。
 何が悲しくて、こんな所で青いジャージのおっさんとメルヘンチックなことをしなければならないのか……。

「こら妹子! 何をしている、手が止まっているぞ。さっさと探すでおま!」

 肩を落とし、どこか遠いところを見ていた僕に太子の叱責が飛んだ。
 ……大体何故突然四葉を探すなどという考えに思い至ったのか……。
 こんなことをする暇があったら、すぐにでも朝廷に戻って書類の山を片付けたいのに……。
 そうは思っていてもこの男の頼みを断れない辺り、僕も相当のお人好しか。
 未だに僕の方を見て口を尖らせている太子を一瞥した後、春草が茂る緑の絨毯に視線を戻した。






 一体どれくらい探していただろう。
 真上に輝いていた太陽は西に傾き、赤い陽光を放つ夕陽になっていた。

「太子~、見つかりましたか?」
「……ない」

 そんな悲しそうな顔で俯かないで欲しい。
 けれど見つからないものは仕方ない。

「しょうがないですね、今日はこれで帰り……」

 ましょう、と言いかけた僕の顔に何か冷たいものが触れる。
 何だ?
 そう思い上を見上げると、先程まで晴れていたはずの空にありえないぐらいのスピードで動く雲が立ち込め始めていた。

「おお~。一雨来そうだな」
「感心してないで早く非難しますよ! ここからなら法隆寺の方が近い。急ぎましょう」

 走るよう促すと太子は一瞬ぽかんと口を開けた後、おう! と短い返事をした。

 と急いで走ったものの、そんな努力も虚しく二人共々雨に降られてしまった。
 ぐっしょりと水を含んで重いジャージを脱ぎ、しまってあった替えのジャージを着こんだ。
 時々この建て直した法隆寺に二人で泊まり込むことがあったので、替えの服等を置いておいたのだ。
 雨に濡れたと言うのに、それすらも太子には楽しい事象だったらしく、縁側に座ってバケツをひっくり返したような雨を子供のような瞳で眺めていた。

「そんなに楽しいですか?」

 手に持った手拭を渡しながら太子に聞くと、満面の笑みを向けられた。

「ああ。楽しいぞ。だけど四葉は見つからなかったな……何だよ夕立の癖に! 全く、摂政を馬鹿にしおって~!」
「摂政は関係ないでしょう……あ、雨が弱くなってきましたね」

 流石夕立と言ったところか、先程の勢いがまるで嘘のように止んできていた。
 空を覆っていた雲に切れ目が入り、眩しいくらいの夕陽が法隆寺に当たる。

「お~、見ろ妹子! 雨粒が光って星みたいだぞ」
「……………」
「どうした?」
「いえ、太子が乙女チックなこと言うんで意識がどこかに吹っ飛んでました」
「失礼だぞお前! 冠位五位のお芋のくせに、不敬罪で訴えるぞ!」
「キモチワルイです太子」
「うぎ~~~! わざわざカタカナで表記するな!」

 妹子なんて逆立ちで街一周の刑にしてやるぞ~、なんてアホなこと叫んでる太子を無視して僕は大きく伸びをする。

「さて、晩御飯でも作るか……」
「もちろんカレーだろうな!?」
「あー、はいはい。分かりましたよ、カレー大好きカレー摂政様」
「お前本当口悪くなったね……」

 太子は目線を夕陽の方へ戻すと、靴を履いて庭先に出た。
 もう雨は完全に上がったようだ。

「妹子!」
「なんですか、アホ太子」
「明日も一緒に遊ぼうな」
「……」

 遊ぶんじゃなくて仕事しろ! と僕の飛び蹴りが太子にヒットするまで、あと五秒。
 空には明るい一番星が輝いていた。


お題:シチュエーション 突然の夕立後、ご飯の前くらいに屋敷の軒先で
キーワード 雨粒が星みたい・明日も一緒に


みじかっ!!!笑
友人にお題を出してもらって書いたお話。
お題があると途端に難しくなってしまう現象に頭を抱えていたっけ?
おかしいな? 普通は楽になるんじゃないのか?
2013.8.13 pixiv掲載
2022.4.23 サイト掲載