王様プロデュース

・FGO七周年おめでとうございます。
・キャストオフ成分があります。
・玉藻ちゃん含め全員喋らせるの難しすぎィ!!
・かなりメタ発言あり。
以上、大丈夫な方のみどうぞ!









 人もサーヴァントも寝静まる丑三つ時。ストーム・ボーダー内の一室に、真紅の影が一つ現れた。

「なんと。誰もおらぬではないか。こんな夜更けに、何ゆえマスターは余を斯様な場所へと呼び出したのだ。……はっ、まさか。とうとうローマ市民権を得る決心がついたというのか! ついに完成してしまうのだな……余とマスターを中心とした、豪華絢爛な夢の国がっ!」
「んなわけねーでございましょ」
「その声は……キャス狐! 貴様も呼び出されておったのか!」

 部屋に入ってきた玉藻の前が、ええ、と短く返事をする。

「呼び出されておりましたとも。まさかネロさんと二人とは聞いていませんでしたが。それはさておき、皇帝様が何故おめでたい結論に達したのか、根掘り葉掘りお聞きしても?」
「お? 聞きたいか? ふふん、ならば教えてやろう。余が確信を得た理由。それはな……コレで、あーる!」

 ててーん、と白い便箋を掲げるネロ皇帝陛下。後ろに後光、顔の周りもキラキラと輝いている。

「はっ、それはまさかっ!」
「そう、これこそはマスターから余に贈られた密書。古風に言えば恋文。現代風に言えばラブレター! まだ中は確認しておらぬが、きっと緊張により震えてしまった文字で、余に対する思いの丈を、ありったけ詰め込んだ文章が綴られているに違いない!」

 開けるのが惜しいくらいだ、とどこかうっとりした表情で語るネロ。その隣で、玉藻の前が全てを把握したようなしたり顔で、肩を振るわせながら怪しい笑い声を上げた。

「ふっふっふ……。何を言い出すかと思えば。残念ですが皇帝様、そのラブレターとやら、おそらく紛い物かと」
「はあ!? 確固たる証拠があっての指摘であろうな? よもや、負け惜しみから余に当てつけをしているのであれば、いかにキャス狐といえどタダでは済まさんぞ」
「あったりまえじゃないですか。そんなミミっちい口撃なんてしませんとも。それはそれとして、理由はですね……私もおんなじ手紙を持っているからでぇす♪」
「なん……だと?」

 がーん、とショックを受けたネロだったが、すぐに別の考えに至る。

「し、しかしその手紙は、貴様を哀れに思ったマスターが、仕方なく用意したものかもしれんではないか! 余の手紙こそ本物で、キャス狐が持つそれこそ偽物かもしれぬぞ?」
「あっそうですか。そういうこと言っちゃいますぅ? でしたら、その手紙、開けてみれば分かるのでは? 白黒ならぬ、赤か青か。はっきりさせるチャンスでございましょう」
「よかろう。あとでコンコンデントコーンとか吠え面かいて、シミュレーターの山に帰るでないぞ?」
「帰りません。ネロさんこそ、ガッツが足りないほど打ちのめされないでくださいませー?」
「では行くぞ……」
「おうともよ」
「「せーのっ」」

 二人同時に、各々の手紙を開封する。出てきたのは簡素で真っ白い用紙。とてもラブレターに使われるような、見目麗しい特別な紙ではない。

「ん? 何々……『FGO七周年を』」
「『祝ってね!』、ですとな?」

 じっと見つめ、何度も頭の中で反芻させる。ようやく出た感想は、二人とも同じものだった。

「「………雑っ!」」

 がっくりと肩を落とすネロ皇帝。

「あまりの味気なさに、ちょっと頭痛がしたぞ……。さすが数多の困難を乗り越えてきた勇者。このような指令書一つで、ローマ皇帝である余を動かそうというのか。肝がすわりすぎておるわ」
「いえ、ネロさん。これはマスターから私たちへの信頼の証に他なりません。真に絆が結ばれているのであれば、短い言葉であっても意味が通じるはず。そして頼るからには、最高の御祝いを用意してくれるはずという考えがあるのです。これはもう、阿と吽の関係に違いねー!」
「なるほどなっ! しかし、なぜ余たちなのだ? 七周年、あまり関係ないのではないか?」
「これだからネロさんは。今年はワダアルコ展も開催されているからに決まっているでしょう。なにより貴女、ご自分の水着スキルをお忘れですか?」
「あー、あれか……。余の別側面が遠い世界線で猛威を奮ったと聞く。確かに、余と七という数字には切っても切れぬ因果があったな。ついでに一つ前の六にも、ものすごーく関係深かったりもするのだが……」
「(マスターの住んでる場所から最寄りの筐体まで片道三時間。どうあがいても遊べないため、ここぞとばかりにネロさんにアーケードのことを喋ってもらって鬱憤を晴らそうとした、とか。そういうどうでもいい情報は口にしないでおきましょう)さて、お祝いの内容ですケド……いかがいたしましょう?」
「うむ! それはもちろん、余の黄金劇場にて類まれなる美声をだな「言うと思いました! 当然却下ですぅ」
「なぜだっ! 愛に満ち溢れた崇高なる歌がタダで聞けるのだぞ!?」
「今何時だと思ってるんです!? マスターや他の職員の方々は、いい夢をご覧になっている最中。たとえお月さまが許しても、お天道さまの化身である玉藻ちゃんが黙っちゃいねーZE☆」
「そ、それもそうか。ううむ……となれば、残るは物を贈るぐらいしか考えつかぬが……」
「ほう。また喧しい面子が揃うておるわ」

 いつの間にいたのか。部屋の入り口には、目もくらむほど眩しい金色の鎧を纏った王が、腕を組んで不遜に立っていた。その紅瞳は二人に向けられたまま、見下したように歪められている。

「「…………一番やかましいのが来た!!」」

 げ、という顔でギルガメッシュを見るネロと玉藻の前。挑発的な言葉で追い返そうとしたのは、真紅のセイバーだった。

「何用だ英雄王。余たちは今、マスターの望みを叶えるのに忙しいのだ。貴様の相手をしている暇などない。……まさか貴様に限って、手伝いたいなどという殊勝な言葉、天地がひっくり返っても出るはずあるまい? 疾く寝所へと帰るがよい」
「そのまさかだと言えば、貴様らは大人しく引き下がるのか?」

 ギルガメッシュは手に持った紙切れをヒラヒラと遊ばせる。それには二人の持つ手紙と似たような文字で「みんなで」と書かれていた。

「あの金ピカ暴君がマスターの頼みを聞いて、あまつさえ他人を祝う……? 何かの冗談ではございませんか? それとも、明日は遥かな宇宙の星から怪獣がやってきて、地球滅亡のカウントダウンでも始まるんです?」
「不敬ぞ、女狐よ。我は祝うべき時は祝う。そんなこともできないほど狭量な男ではない。雑種からの頼みというのが、些か業腹ではあるがな。まあ、今回ばかりは不敬な行動にも目を瞑ってやらねばならんようだ。……して、祝うというからには、聖杯イベントにも匹敵するような、壮大な計画があるのであろうな?」

 サッと逸らされるネロと玉藻の前の視線。ギルガメッシュは馬鹿にしたように声を張り上げた。やっぱりちょっとだけうるさい。

「なんとノープランか! ピーピー喚いておきながら、やはり有象無象の考える浅知恵などその程度のものよなぁ! 先程チラと話しておったが、物を贈るならば我の財に敵うものなどなかろう。そら、好きな物を持っていくがよい」

 バビロンの蔵が開き、中からザラザラと財宝が落ちてきた。それを見た玉藻の前の身体がソワソワと動き出し、顔つきがやけに狐っぽくなったのは言うまでもない。

「ほう……。やけに太っ腹だな。やはり七周年ともなれば、いかに貴様といえど財布の紐も弛むというヤツか?」
「人の上に立ち、かつ財を所有する者として、投資は必須スキルであろう。必要な場所、適切な時、見込みのある者に対し、それ相応の資材を与える。それにより、初めて凡夫共は働くようになるものだ。こと、祭り事であれば、我は金に糸目はつけん。存分にやれ、と許すことも吝かではない」
「先立つものは何とやら、でございますからね。それ自体は、まぁ私自身とーっても大好きなのですが……。それでもですね、もうちょっとこう……心に響くというんですか? マスターは、そういうイイ感じのアレソレを求めているんじゃありません?」

 玉藻の前が唇を尖らせた。転がってきた宝石をこっそり足で引き寄せているから、全然説得力はない。

「ふん、言うではないか。まさか貴様に雑種の価値観を諭されるとは思わなかったぞ。ふむ、そうさな……。であれば、取るべき手段はただ一つ。つまり、『一肌脱ぐ』ということだ」
「はい? どういう意味で───」
「A・U・O、キャストオフ!!」
 英雄王の鎧が瞬時にキャストオフされた。どういう原理か分からないが、裸体の中心が輝いているのは、全てを察するか、完全に無視しなければならない事象だ。

「ぎゃああああ! 本当に脱ぐって……貴方、アタマおかしいんじゃないですか!?」

 玉藻の前が絶叫した。

「何がおかしいか!? 我の裸体はダイヤモンド、いや緋色のエメラルドに匹敵するほど、希少かつ至高のものぞ。じっくり拝み、とくとその凡庸な脳に焼き付けるがいい!」

 さあ! と両手を広げ、見せつけてくる変態王。
 玉藻の前は顔を引き攣らせた。

「自己愛もここまで拗らせたら犯罪になる、と。あとで記憶からしっかりデリートしておかなければ……。あと、コンプライアンス的にどうなんでございましょ? 数十年前ならアリだったかもしれませんが、今や時代は大監視時代。お外では自称警備員さん達が目を光らせて、日夜、見えない敵を探している始末。耳と尾がザワザワいたしますのは、よくねー前触れと相場が決まっているものですし」

 呼応するように玉藻の前のケモノ部分が細かく震え始めた。これは外宇宙から訪れる闇の電波も受信してしまった可能性も、あったりするかもしれないし、なかったりするかもしれない。

「うむ、では薔薇を散らせば支障あるまい!」

 黄金劇場(簡易版)を展開し、大量の花びらの雨を降らせるネロ。

「そういう問題じゃないんですけど、バーローマ皇帝! あれは花びらが止まってるから意味があるのであって、動いてたら全然意味な……ちょっと!? なんで貴女も脱いでいらっしゃるんです!?」

 いつのまにか、ネロが纏う赤いスカートが消えていた。代わりにどこから現れたのか、赤い帯がネロの身体に張りついていた。ご丁寧に大事な部分だけを上手く隠れているのが、どうにも小賢しく感じる。

「ふはははは! 話が分かるではないか、ローマの皇帝よ! やはり我が見込んだ顔と同じ造りなだけはある!」
「青い者の話は止めよ、無粋であろう? 此度の催しを一任されたのは、情熱の如く燃え盛る、赤いセイバーたる余だ。であれば、そこで勝ち得た全ての愛、全ての讃美は、余にこそ降り注がれねばならぬ。そして、それらを生み出すのも、また余でなければならない。ウェヌスもかくやと謳われた裸体、今宵は出し惜しみせず、皆に披露しようではないかっ! そして万雷の喝采を巻き起こそう! これこそが、余のプロデュースする七周年記念である故に!」

 高笑いを続ける裸の王様たち。薔薇の花がチラチラと、隠しているんだかいないんだか。とりあえず何か鬱陶しいことだけは明白だ。
 玉藻の前は深夜だということもすっかり忘れて叫んでいた。

「何という大暴走。この暴君二騎、どうしようもねぇ! ……え、ちょっとネロさん? なんで手をわきわきさせながらコッチに近付いて来てるんです? ……す、ストッププリーズ! 玉藻ちゃん、良妻賢母の巫女狐なんですよ!? 生娘ではないので裸に抵抗はありませんが、人前で所かまわず、みだりに脱ぐようなビッチではございません! だから私の服を脱がすのは……その、色々問題がーっ!!」

 ギャーギャーと喚き散らす三騎。その様子はまさに古代ローマの祭り、チルチェンセスのようだ。
 喧騒が支配する部屋の外では、赤い外套のアーチャーが立っていた。彼は「仲良く」と印字された四枚目の手紙を握りしめながら、心の底からこう思った。

「(出ていかなくて本っ当によかった!! というか、全然祝えていないじゃないかっ!!)」



FGO七周年、おめでとうございますっ☆
ワダアルコ展のブロマイドにビックリしたので、この四人に祝っていただきました。
相変わらずサイト裏でしか祝っていないし、楽しいのはせとりだけですが。
少しでも笑えるお話に……なっていたらよかったのになあ!!( ;∀;)
2022.7.28