ハルジオン 8

・ちょっと長めの戦闘描写。流血表現はありませんが、苦手な方・忙しい方・そんなの興味ねぇ!って方は、あとがきにダイジェスト書いとくので、そちらをご覧ください。

以上、大丈夫な方のみスクロールどうぞ!








 手入れされていない森を歩くのは、意外にも骨が折れる行為だった。しっかり踏みしめなければ伸びた下草に足を取られて転けそうになるし、慎重になるから自然と進みが遅くなる。それでもアーチャーに言わせれば、この森はまだ歩きやすい部類に入るらしい。

「本当に歩きにくい森っつーのは、倒木があちこちにあったり、雑草が背丈越してたりする前人未踏の場所のことですよ。障害物もない平地で、これくらいの下草なら可愛らしいもんですわ」

 リツカは己の身長を越した雑草の壁を想像して、思わず上を見上げた。
 背丈って……。ジャングルの間違いなのでは? そりゃあ、それに比べたら結界内の森は“可愛いらしい”に入るんだろうけど……。こんなところで学校の森がいかに恵まれた環境かを思い知ることになろうとは。異常を解決して、全部元に戻ったら、用務員さん達に菓子折りを持っていこうかな。
 ──それにしても、どれくらい歩いただろう。時間が止まっているので正確には分からないが、体感では三十分ぐらい歩いた気がする。しかし依然として薄気味悪い森が続くだけだ。

「ねぇ二人とも、なんかおかしくない? これだけ歩いてるのに校舎も見えないし、死霊にも全然出くわさないよ?」

 リツカの疑問を皮切りに、前を歩く二騎の英霊が足を止めた。

「校舎はともかくとして、敵が出てこないのは確かに不気味ですね。仮にも乗り込んできた私達に対して、何も仕掛けてこないとは考えにくいのですが……」

 キャスターが口元に手を当て考え込んでいると、アーチャーが、あー、と低いトーンで声を発した。

「そういうこと言っちまうと、結構ヤバめな敵が来たりするんすよねー。現代風に言うと『フラグ』ってやつっすわ」
「そんな変に空気読むような敵、出てこなくていいんだけどなぁ」

 シャキーン……。シャキーン……。
 どこかで聞いたことのある音が森の中にこだまする。全員が一斉に口を噤み、不吉な音に耳を傾けた。
 シャキーン、シャキーン……。
 ──近付いてくるこの音は。うん、もしかしなくてもアイツだよね。
 音の主を知っているリツカは、ひとり、天を仰いだ。「二度と会いたくないなー」という願望と、「このまま遭遇せずにいけるのでは」という儚い希望が、いとも容易く打ち砕かれる。
 大は小を兼ねるなんてことわざがあるけれど、全てが大きければいいって話でもないのだ。まして、虫と幽霊は大きくて良かったためしなんて、リツカの中では一度もない。

「アーチャーがフラグなんか立てるから……」

 八つ当たり以外の何物でもない泣き言を吐き捨てる。矛先を向けられたアーチャーは、タレ目がちな目を見開いた。

「オレっ!? オレが悪いのか!? いや、今のは軽い冗談のつもりだったんですけどねぇ!?」

 前方の木立の影から見覚えのある霊体が、ゆらり、と現れた。質量を感じさせない浮遊での移動は、学校で襲われそうになった時となんら変わっていない。
 暗い洞穴の目がリツカ達を捕捉する。

「────ッ!」

 人外の甲高い咆哮が夜気を震わせた。金属同士を思いきり擦り合わせたような不快音。ぞわり、とリツカの背筋に冷たい戦慄が走った。

「ちょうどいい。マスター、そのまま後ろに下がっててくださいよ。極力音もたてねぇように。宝具の効力がなくなっちまいますから」

 アーチャーは後ろ手に、リツカの頭にフードを被せた。視界が遮られる。リツカは言われた通り音を立てないよう慎重に、一歩、また一歩と後ずさった。
 時間にして数秒。されど標的が目の前から忽然と消えたことに気付いた死霊が、怒りの色を滲ませながら巨体をブルブルと震わせた。
 そして、それが開戦の合図となった。
 死霊はアーチャーとキャスターを纏めて両断せしめんと、鋏の刃を全開にしながら襲ってくる。二騎は迎え撃つように死霊へと数歩走り、まさに鋏が閉じるギリギリの瞬間を狙って、別々の方向へと飛んで躱した。

「さてと、一丁気合入れて行きますかっ!」

 地面に落ちるよりも早く、空中でクロスボウを構えたアーチャーが矢を放った。連続した三筋の矢が、目標の顔付近をめがけ真っ直ぐ向かっていく。しかしそれらは容易く死霊の持つ鋏で払い除けられてしまった。

「そうくるのは予想済み、ってな。キャスター!」

 アーチャーの反対側で急速な魔力の高まりが感じられる。キャスターの背後には鏡が浮かんでいた。

「ファラオに向かって指図とはいい度胸ですね。貴方に言われずともっ!」

 鏡から現れた髑髏が死霊の体に次々と噛み付く。だが、小さな死霊の時とはだいぶ様子が違っていた。死霊自体の動きは鈍くはなっているものの、消滅する気配が全くないのだ。

「相手が大きすぎます! 緩い枷ぐらいにしかなりませんよ!」
「いや、それで十分だ」

 キャスターの注意を受け、分かっているというように返事をしたアーチャーが再び矢を射った。幽霊相手に弓矢というのも違和感があるけれど、そんな心配する間もなく、矢は死霊に深々と突き刺さる。眉間、胸部、腹部にそれぞれ一本ずつ。人体であればどれも致命傷の部位だ。
 しかし一瞬の怯みは見せたものの、死霊は平然としている。アーチャーは面倒だと言わんばかりに強めの舌打ちをした。
 
「ヤケに頑丈すぎやしねーか? やっぱり外見が他と違うだけあるってことか」

 突き刺さった矢を煩わしそうに抜きながら、大型死霊は空に向かって怨嗟の声を上げる。それに呼応して、木々の合間や辺りの空間から、鎌を持った小さな死霊が湧いてきた。

「ええい、邪魔です! メジェドさま!」

 キャスターが錫杖を打ち鳴らすと、頭上に現れた金色の光の中からメジェドがわらわらと落ちてきた。直後、死霊の群れに頭突きをしたり、蹴りを入れたりと忙しなく動き回り始めた。
 商店街で相手した時よりも小さな死霊の数自体は少ない。せいぜい十体ぐらいといったところだ。それだというのにキャスターがこんなにも焦っているのは、敵が縦横無尽に動き回り、四方八方ランダムに襲ってくるからに他ならない。宝具で召喚した髑髏も長く現界することは出来ないのか、気付いたときには姿が見えなくなっていた。
 その間にも、アーチャーは大型死霊の刃をうまく避け続けながら小型死霊を数体射抜いている。飛んだり跳ねたりと、軽業師もびっくりな身のこなしはさすがだ。
 しかし……。
 数時間前に何度か戦闘を経験しただけのリツカにとって、戦いの何たるかはいまだに分かっていない。だが素人の目から見ても戦況は明らかだった。
 ──圧されている。このまま長引けば、遠からずこちらが負けてしまう。
 せめて、あの小さな厄介者さえ消えてくれれば……。せめて、キャスターが宝具を使うぐらいの余裕を生みだすことができれば……。
 考えろ、考えろ! この状況を打破できる一手を!
 その時、ふと、リツカの頭に一筋の光明が差した。
 ある。この状況に隙を作る方法が。
 体が震えた。思いついた作戦に、自分自身がついていけるだろうかと一抹の不安が過ぎった。絶対に危険だ。きっと実行すれば、二人にこっぴどく叱られてしまうだろう。
 でも後ろでのうのうと守られているだけなんて、やっぱり性に合わない。
 それに決めたんだ。どんなに怖くても戦うって!
 リツカは決意を胸に大きく息を吸い込んだ。

「こっちだっ!!」

 あらん限りの声を張り上げ、フードを思い切り取り去った。アーチャーの宝具の効果が切れる。リツカの姿が白月の下に晒される。敵味方が入り乱れる戦場に一瞬の沈黙が走った。
 先に動いたのは敵の群れだった。小さな死霊達がキャスターやアーチャーには目もくれず、リツカだけに狙いを定めてきた。
 それでいい。読み通りだ!

「キャスター、今のうちにもう一度宝具の準備を! アーチャーはそのまま大きい死霊を引きつけといて!」
「同盟者!? な、なんてことを!?」
「あんの、アホマスターっ!」

 驚愕の表情を浮かべる二人をよそに、リツカは指示を出しながら、ひたすらに走った。背後に迫る殺意。戦場から離れすぎないように意識して、一番近い木の外周を回り、方向転換しようとした。

「──いっ!」

 焦りが出てしまったのか、あまりに勢いよく回ったので、最も外側のカーブで下草に足を取られ、そのまま地面に滑り込む形で転けてしまった。
 強かに打ちつけた右腕の鈍い痛みに顔を歪めていると、数体の死霊が鎌を振り上げる姿が視界に飛び込んできた。直感だけを信じて横に転がる。
 ざくり。
 土を抉る音と、微かな青臭さが漂う。同時に髪を通して頭に引っ張られたような違和感が走った。おそらくポニーテールにしていた朱い髪の先を少し持って行かれたのだろう。だがそんなことをいちいち確認している暇などない。
 必死に起き上がり、再び足を動かす。今度は元いた場所に向かっての全力疾走。
 これだけ引きつければ、きっと大丈夫。というか、もうそろそろ限界!
 疲労から心臓が今までにないくらい早鐘を打っているし、油断すると内臓が口から飛び出るんじゃないかってぐらい緊張している。それでも走っていられるのは、ひとえに、至らない自分を守るために戦ってくれる彼らを信じているからだ。
 リツカの祈りが通じたのか、前方から見慣れた髑髏が飛んできた。振り返らずとも後方で死霊の気配が消えていくのが分かる。
 走って、走って。地獄のランニングを終えたリツカは、ようやく元の場所に戻ってきた。キャスターの側に寄って、細腕にしがみつきながら、ぜぇぜぇと上がった息を整えた。

「ありがとう、やってくれるって信じてた! そして残りもお願い!」
「無茶をし過ぎですっ! ですが、おかげで攻撃に専念できました。でませい!」

 頭上に金や銀のスカラベが召喚され、キャスターの宝具を逃れた残党を迎え撃つ。今度こそ小さな死霊の群れは跡形もなく消滅していった。
 そうだ、アーチャーは!?
 余裕のできたリツカは視線を巡らせる。
 緑の弓兵は指示通り、自らが囮になることで大型死霊の足止めをしていた。死霊の体には無数の矢が刺さったままだ。アーチャーの地道な攻撃の影響からか、最初に見せていた機敏さには微かなかげりが見え始めていた。

「アーチャー!」

 リツカの声が戦場に響く。名を呼ばれたアーチャーではなく、敵である死霊がリツカの方へと顔を向けた。まるで自動的に、機械的に反応するかのような動きだ。
 間違いない。死霊自体にそこまで自我というものはなく、何らかの命令を優先し、実行しているだけにすぎないようだ。この場合は「生きて動く人間、音を発する人間を襲え」といったところだろうか。英霊は人理の影法師。生きている人間とは違う。だから戦闘の最中でも、死霊たちはリツカの声に反応せざるをえなかったのだ。
 そして、その隙を逃すほど、アーチャーは甘くなかった。

「よそ見たぁいい度胸だな。──弔いの木よ、牙を砥げ。『祈りの弓』(イー・バウ)!」

 クロスボウから明緑の魔力を纏う一矢が放たれる。敵の死角から入射したそれは、首元あたりに深々と刺さった。
 それだけにとどまらない。死霊の足元から木の幹がまるで生き物のように伸び、死霊を巻き込みながら、あっという間に青々と茂る大木にまで成長を遂げる。大木はそのまま急速に枯れ、最終的に毒々しい紫紺の煙の花を咲かせて散り散りになった。後に残るのは、甘いような、苦いような、なんとも言えない不思議な芳香と、

「グ、オォ……」

 ダラリと鋏の切先を下に向けて、苦しみの声を上げる死霊だった。
 今のがアーチャーの宝具にして切り札。初めて見た所感だが、おそらく毒を操り、敵の内部で威力を倍増させるものだ。以前言ってた「毒盛ったりするのが得意」ってこのことだったのか、と妙に納得する。そして文句なく強い。キャスターのように敵の数を減らすことはできないかもしれないが、そのぶん一体に与えるダメージが大きいようだ。
 その証拠に、攻撃を受けた死霊はピクリとも動かない。
 やっと終わった。そう思った瞬間だった。

「あれで死なねーのかよ。どうなってんのかね、このデカブツは」

 アーチャーが心底うんざりするように毒づいた。それもそのはずだ。必殺を受けながらも、死霊はなおもそこに存在している。明らかにボロボロで攻撃の傷は負っているが、まだ消滅とまでは至らない。
 そのとき、リツカの隣で何かに気付いたキャスターが、はっと息を飲んだ。

「まさか……神性持ち? いえ、ありえません。ただの死霊が神であるはずが……」
「キャスター、シンセイって何?」
「“神”と言い換えても語弊はない、高位の存在が持つ特性のことです。これに対抗できるのは同じ神性を有する存在や物に限られてしまうのですが、仮にあの死霊に神性があるとすれば、アーチャーの攻撃は……」
「あまり効かない」

 キャスターは黙って頷いた。
 ググッ、と再び動き出した死霊の手の中で、刃が交わる支点から鋏が二つに分解された。そこにあるのはすでに鋏ではない。禍々しい形を成した二対の黒剣だった。

「それ外れんのかよ!!」

 そんなのアリか! とアーチャーが叫んだのも束の間、死霊は双剣の斬撃を四度繰り出す。生み出された四つの真空波が地を這い、土や草を巻き上げながら、アーチャーへと牙を剥いた。彼は慌てて横へ飛んで交わす。が、死霊はすでに次の行動に移っていた。
 真空波に紛れて距離を詰めた死霊は、体勢の整わないアーチャーの左側へ突きを繰り出す。掠りもしない一刀。攻撃が目的ではない。これは行動を制限するための布石だ。本命は、もう一方の黒剣。斜めから振り下ろされるそれは、右に避けようと、上に避けようと、少し軌道を変えるだけで獲物を簡単に切り裂いてしまうだろう。

 振り上げられた鋏の刃。
 ギラリと月光に冴え渡る冷たい切先。
 死霊が不気味に笑った気がした。
 ──早く避けて!
 そう言葉を発したいのに、何かがつかえたように喉が固まってしまって動かない。
 非情な刃が、アーチャーに振り下ろされる。
 だめだ、もう、避けられない……。

「アーチャーあああああ!」

 ──刹那。
 視界の上方、空の彼方から何かがすごいスピードで真っ直ぐ落ちてきた。視認できないほどの速さで動くそれは、まさに空間を裂く一筋の赤い閃光だった。その稲妻にも似た閃光が、神性の殻で守護されていた死霊の脳天から顎までを、柔らかく、けれどしっかりと一息に貫く。

「ガッ……!」

 たった一撃。されど死霊にとって、それは初めて味わう壮絶な痛覚だったに違いない。死霊は貫かれた何かによって、なす術もなく顔を地へと縫い付けられている。さながら生きたまま標本にされた虫のようだ。
 それでもまだジタバタともがく死霊の生命力に、一同が唖然と見つめる中、今度は上空から声が降ってきた。

「一槍では死なんか。容易に死ねぬ身とは、お互い苦労するものだな。せめてもの慈悲だ、受け取るがよい」

 凛とした力強さを感じさせる落ち着いた女性の声。慌ててリツカは顔を上げた。
 空中に人がいた。黒く洗練された戦装束に身を包んだ女性が、暗い赤髪をはためかせながら浮かんでいる。いや、多分正確には落ちてきているのだろう。重力に引き寄せられる勢いのまま、女性は身の丈よりも長い槍を構える。鮮血のごとき光が暗い空いっぱいに満ち始めた。

「刺し穿ち、突き穿つ!『貫き穿つ死翔の槍』(ゲイ・ボルク・オルタナティブ)!」

 女性諸共、槍の先が死霊の胴体に突き刺さる。死霊は断末魔をあげる間もなく、黒い煤となって霧散してしまった。その煤が晴れた中から、二本の槍を手にした女性がゆっくりと立ち上がり、そして槍と同じ赤い瞳でリツカをじっと見据えてきた。

「怪我はないか?」
「えっ、あ、はい! 大丈夫、です。あの……貴女もサーヴァント、ですよね?」
「そうだ。喚び声に導かれて現界した。クラスは見ての通りランサーだ」

 ランサーと名乗った女性は、持っていた槍を器用にくるくるっと回した。

「いやー、助かりましたわ。あんだけしぶとい敵となると、オレとキャスターの攻撃、あと何発入れなきゃならんのか分かったもんじゃないですから。影の国の女王サマなら神殺しも朝メシ前ってやつですか」

 先ほどの緊張はどこへやら、へらりと笑いながらアーチャーがこちらに近づいてきた。

「……私を知っているのか。見たところ弓兵のようだが、どこぞの戦場で会ったかな?」
「そうだな。少し思い出話をするとすれば、昔々に別のアンタと一緒に、とある大陸を横断したことがあるってだけさ」
「それはまた、えらく特殊な状況だな。言葉だけだと逃避行のように聞こえなくもない。何ぞに追われでもしたか」
「当たらずとも遠からずってとこなんですけど、あんな生きた心地しねー逃避行は二度とごめんですよ。っと、それよりも! おい、このアホマスター! なんで勝手に宝具解除して囮になってんですかねぇ!? あぶねーでしょうが!」

 アーチャーが怒鳴りながら、リツカの朱い頭を片手で掴む。そのままギリギリと五指に力を込められた。

「二人が戦ってるのに私だけ守られてるのが嫌だったんだもん! ああしなきゃ敵に隙が生まれないし、キャスターも宝具使えなかったじゃん! アーチャーだって、ぎゃーっ! 痛い痛いっ! 頭が割れるぅうう!」
「だからっていきなりやる奴があるかっ! そういうのは事前に話し合って決めとくもんだ」
「同意するのは癪ですがアーチャーの言う通りです。私なんか驚き過ぎて、あの時メジェド様をお一人、間違って殴ってしまいました……」

 それは私のせいじゃないと思うんだけど……。でもここで反論すると過保護なアーチャーと真面目なキャスターが更に詰め寄ってきそうだ。
 何とかアーチャーの手を引き剥がすと、今度はランサーの手がよしよしと頭を撫でてきた。

「私は好きだがな。勇敢な者は好ましい。それに空から見ておったが、あの状況では一番の打開策だろうよ」
「ヘタに甘やかすと、遺伝子レベルで受け継がれてる蛮勇が更に加速するんでやめてもらっていいですかね」
「むぅ。あれを蛮勇として扱うか。なかなかに過保護だな、お主。しかし無茶をするという点では、マスター共々いい勝負なのではないか? のう、アーチャーよ」

 ランサーはくつろぐようなラフさで、地面に軽く突き刺した一本槍にしなだれかかった。

「お主、先程の死霊からの攻撃。わざと受けようとしていたな?」
「はぁ? そんなワケねーでしょ。誰が好き好んで痛い思いしたがるんですかね。アンタじゃあるまいし」
「おや違ったか? しかし、すぐに動けたはずなのに、お主はあえて動かなかった。私の目は誤魔化せんぞ」

 深紅の瞳が面白そうに細められる。おそらくアーチャーの真意は何だと勘ぐっているのだ。

「…………やれやれ。さすがアルスター最強の戦士サマだ。結構いい感じに演技できたと思ってたんだが。全部お見通しってワケですか」

 シラを切り通せないと悟ったのか、アーチャーは観念したように両手を広げて見せた。
 行動の意図が分からない。何故あえて危険を冒す必要があったのだろうか。
 リツカの怪訝な視線に気づいたアーチャーが、静かに目を伏せた。

「確かめたいことがあったんですよ。オレの馬鹿げた仮説ですがね。実証されなければ仮説のままで終わってたんだが……。けど、それはさっきランサーが召喚されたことで、確信に変わっちまった」

 アーチャーは大仰に肩を竦めてみせた。そしてとんでもない爆弾発言をした。

「マスター。何でかは知らねーが、アンタの中に聖杯があるんですよ。誰にも分からないほど上手く誤魔化されてはいますがね」



あとがきという名のダイジェスト

・学校であった大きい死霊が襲ってきました。
・苦戦する二人のため、リツカちゃん囮になる。
・大きい死霊、何故か神性持ってる。倒せない。
・ロビンさんピンチ。と、そこへ空からスカサハ師匠登場。
・オルタナティブ!
・戦闘終了。リツカちゃん、ロビンさんに怒られる。
・ロビンさん、ピンチの演技を師匠に見破られる。
・リツカちゃんの中に聖杯入ってますやん。

こんな感じです。
次は色んな人がわちゃわちゃ喋る場面の予定です。
2021.11.6