無意識、意識
フリーホラーゲーム「殺戮の天使」より。ザック×レイチェル。
初めてそいつを見た時の印象は「新しい獲物」。
次に会った時に感じた印象は「お人形さん」だった。
何故確かにあった感情がなくなってしまったのか、不思議に思った。
「おい、レイ、B5で何があったんだよ」
木箱に入っている大量のネームプレートを漁っているレイチェルに、頭に浮かんだ疑問をそのままぶつけてみる。白いネームプレートの山を見つめていたレイチェルのガラス玉のような青い瞳が、俺の方に向けられた。
「……いきなりどうしたの? ザック」
その顔には「どうして今更そんなことを?」という疑問の色がありありと浮かんでいる。
先に進むためにはこの部屋でマグショットとやらを撮らなければならないらしいのだが、それにはネームプレートが必要だとレイチェルが言った。
しかし俺は全く文字が読めないので、代わりにレイチェルが二人分のネームプレートを探している最中だ。
金髪の少女が少し眉をひそめて俺を見ているのは、先刻早く探せと言った張本人が探すことを邪魔するなという非難の色も含まれていたのだろう。
俺はそんなこともお構いなしに、レイチェルに話しかけた。
「お前、B6であった時はそこまで無表情じゃなかったろ」
「……そう、だったかな」
「俺が殺そうと思えるくらいの感情はあったぞ」
「…………」
「……言っとくが、B6に戻ったとしてもお前の感情は戻らねぇと思うぞ?」
「! すごい、何で分かったの?」
おい、本気でそんなこと考えてたのかよ。
こいつは頭がいいんだか悪いんだかよく分かんねぇんだよな……。
「B5で何があったんだよ」
俺から逃げた後、ダニーとレイチェルの間に何があったのか、それを知ることができれば、こいつもちっとはマシな表情をするようになるんじゃないのか。
そう思い、レイチェルに再度尋ねてみれば、青い瞳の少女は小首を傾げ、うーんと唸った。
「……分からない」
「……」
「でも……」
「あ?」
レイチェルは何かを思い出しているのか、ぼんやりと青い目で虚空を見つめていた。
「……私は生きてちゃいけないと思ったの」
「……」
だめだこりゃ。
いくらバカな俺でも、埒が明かないことだけは十分すぎるほど分かった。
とりあえずこの気持ち悪い顔がなんとかならないかと思い、俺は木箱の前に立っているレイチェルの方へ近付き、包帯だらけの手でレイチェルの白い頬をつまんだ。
そのまま力任せにぐにぐにとつねってみる。
「なにひゅるの」
「表情筋が死んでるから、そんな気持ち悪りぃ顔になんだよ。筋肉を動かせ」
びろーんと頬を横に引っ張っていると、レイチェルは小さく「いひゃい……」と呟いた。
本当に痛いのか、大きな目にうっすらと涙が浮かんでいる。
その潤んだ瞳が上目遣いで俺を睨んできた。
「……っ!?」
唐突にまずいと感じ、慌てて両手を離し、レイチェルから視線を逸らす。
いや、まずいってなんだよ。
というか、何でこんなに心臓がうるせぇんだよ!
混乱する頭に冷静さを取り戻させようと躍起になっていると、パーカーの裾をくいっと一回引っ張られた。
そろりと視線を戻せば、頬を少し赤く染めたレイチェルが俺を見つめていた。
「ザック?」
「───っ!! お前! 不用意に俺に近付くんじゃねぇ!」
「ザックの方から近付いて来たのに……」
「うるせぇ! 何でもいいから、早く目的のもん探せよ!」
レイチェルから大袈裟に距離を取り、鎌の刃を少女に向ける。
しかし人形のように無表情な少女は全く動じていない。
そうだった、こいつには逆効果だった。
レイチェルは小声で「変なザック・・・・・・」と恨み言を零した後、再びネームプレートを探し始めた。
俺は変じゃねぇ!
いたって「マトモな一般成人男性」だ!
うるさく鳴り響く心臓を抑える間、俺はずっと自分自身にそう言い聞かせていた。
この頃フリーホラーゲームにハマってたんだよなぁ。
「Ib」、「殺戮の天使」、「怪異症候群」、すごく好き。今でも好き。
……って、よく考えたら全部「お兄さん×少女」だ。
我ながら趣味が一貫してますね……。
以下、pixiv掲載時のせとりのコメント
「私がやったゲームの中の二人はこんな感じでしたよ?笑
ザクレイ早く結婚しろ^p^」
うん、最後の顔文字が最高に気持ち悪いですね。
2015.10.18 pixiv掲載
2022.3.13 サイト掲載